マルチローター外伝


4ローターは新しい道を求めて・・・

MAZDA 787Bは’91年ロータリーマシンでル・マンを制覇すると言う使命を果たすと,その年のSWC参戦を最後に第一線を退くこととなりました。そして’92年のSWC(スポーツカー世界選手権)はNAレシプロ・エンジン(3500cc V型10気筒)を心臓に持つMXR-01が引き継いで参戦したのです。

そしてR26B 4ローターエンジンは活躍の場所が無くなったかといえばそうではありません。

舞台は自由の国アメリカ。IMSAに活躍の場を置くこととなりました。

マシンはRX-792P。

R26BはIMSAのレースで真価を発揮するようにチューンされ,650psを発揮しました。(IMSAは市街地レースも多く,騒音を109デシベルまでに抑える規定があり,実質デチューンですがその規定に合わせられたのです。)

4ローターはライバルに比べてコンパクトなのも特徴。したがってボディーも空力対策が十分なされ,とてもグラマラスなデザインとなりました。しかし,シャーシ性能による熱問題が克服されることはなく,成果をあげることはできませんでした。

しかし,アメリカの人々にレーシングロータリーの存在をアピールするには十分なパフォーマンスであったことも事実です。

’93年以降は,マツダの本業の不振もあり,マツダのワークスマシンがル・マンに出場することはありませんでした。

しかし,ロータリーサウンドはル・マンの森には響き渡っていました。寺田陽一朗選手の駆るマルチローターマシンがサルテサーキットを駆け抜けていったのです。

’94年 RX-7・GTS,’95年マツダDG-3,’96年マツダDG-4,’97年マツダMS-97.

そして,2002年ル・マンには再び4ローターマシンの咆哮が木魂する事になりました。寺田陽一朗選手率いる「Auto exe」がル・マンに参戦することになったのです。

日本で走る姿を見ることができないのはとても残念ですが,また,あの4ローターの咆哮を是非聞いてみたいものです。

これぞ究極のマルチローター!?

そして,最後に興味深いマシンを一台。

このマシンはRX-500と言うマシンです。なんとあのアメリカのインディー500を走るために開発されたマシンです。

最高出力910ps!!何でこんなに馬力が出るのでしょう?スペックを見ると,・・・なんと6ローター!

実はこれ,小説の世界なんです。

小説のタイトルは,「ロータリーがインディーに吼える時」。高斎正さんという作家が創りあげた小説です。

舞台は,もう20数年前の富士グランド・チャンピオンレース。名もないプライベートレーサーがとても古いシャーシーとロータリーエンジンでレースに出場しているところから始まります。

彼はそれでも予選でそこそこのタイムを出すと,コース上に止まってしまいます。ほぼワークス同等のロータリーエンジンを使うチームが様子を見に行くと,止まった理由が「これ以上走るとエンジンが壊れると感じたからエンジンを止めた。」と一言。

彼に興味を持ったチームが一年落ちのシャーシーとニューエンジンを乗せたマシンを貸し出し,走らせて見ると,なんとぶっつけ本番の予選にもかかわらず,そして旧シャーシーにもかかわらず2番手を確保します。

そして彼は次代のロータリー使いとして成長していきます。

時まさに,SA22C RX-7を市場に出そうとしていたマツダ。市場にマツダ・ロータリーをアピールするためにインディー参戦を決断しました。

そして高回転を達成するために考え出された(この小説では18000rpm!)のが,6ローターなのです。

そして,前述の選手と,6ローターマシンはインディー500に打って出るのです。

果たしてロータリーエンジンはインディー500で活躍することができるのか・・・?

この小説はフィクションでありながら,人物・背景の設定が実際と酷似している(どことなく名前が似ていたりする。)ので,当時の時代のレースの背景がつかめたりもします。

とても興味ある小説ですが,さすがにもう絶版でしょうか・・・?

むすび
朝もやが晴れ始めようとしている晩夏の鈴鹿サーキット。私は1コーナー手前のDスタンドに座っていました。

初めての鈴鹿レース観戦。友達とくだらないお喋りをしながらレースマシンが出て来るのを待ちます。

トヨタ,日産,ポルシェ・・・各車が練習走行に出てきます。

「おぉ,やっぱりレーシングマシンてのは,音に迫力があるなぁ。生で聞くとゼンゼン違うなぁ・・・」

テレビの音量をフルボリュームにしたらこんな音になるかな。なんて余裕で考えていたその瞬間,今までのマシンとはまったく違ったエキゾーストを発する車が出てきました。

R26B 4ローターエンジンを搭載した「MAZDA 787B」です。今までのマシンとは比較にならない高音。いや,これはもはやエンジン音ではありません。この世に生を受けたものの「咆哮」としか言いようがありません。

R26B4ローターエンジンが私の目の前を通り過ぎた瞬間,脳天から背筋に電撃が走り,目からは熱いものがこみ上げてきました。そのレースの予選から決勝の2日間,私は鈴鹿サーキットのあらゆるコーナーでこのマシンを「咆哮」を堪能しました。

よく聞くと,高音部分だけでなく,かなりの低音も混じって聞こえてきます。これが絶妙なハーモニーとして聞こえてきます。

かつて,ホンダF1エンジンを「ホンダミュージック」と賞賛する向きがありましたが,まさに,このロータリーエンジンの咆哮も「ミュージック」そのものです。

このエンジンが表舞台から消えているのは,とても残念です。

しかし,上文に述べたように,2002年,またル・マンにロータリーサウンドが戻ってきます。

かつて2ローターマシンがはじめてル・マンを走った時もノン・ワークスでした。

このマシンの活躍がまたワークスのやる気を起こさせ,ロータリーマシンがレースの表舞台に帰ってくることを切に望み,マルチローターヒストリー・シリーズを完結と致します。