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| Vol.04 |
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それは、起床後すぐの出来事だった。まだ回転していない頭を無理矢理フル回転させ、必死で最悪の事態を避けようとしていた。
寝室でのはちあわせ。それだけでも十分最悪だ。しかし更に最悪な事に、今日子はプリシラを僕の子どもだと勘違いしてしまったのだ。その上またまた最悪な事に、今日子は僕が既婚者だと思ったらしい。そして一番最悪な事は言い訳が出来ない事だった。プリシラは正体不明の少女だ。なぜその少女が僕と同居しているのか?自分でも理解できないのだから他人に理解されるわけが無い。本当のことを言ってしまえば、間違いなく不審者にされてしまう。さてどうするか。いつもの僕ならば冷静に今日子をあしらうのだが、何せ考える時間が無い。さて・・・・・・。こうしている間にも今日子はわめくように怒鳴っている。今日子がプライベートで怒るのは初めての事だ。
「最初から結婚する気なんて無かったんでしょう?だから・・・」
「違う!誤解だって言ってるじゃないか!」
「じゃあこの子は誰なのよ!」
「それは・・・・・・。」
「ほら!子供なんでしょう?高村君の。・・・・・・奥様は?何処に居るの?まだ寝てるの?高村君を起こすのも朝食を作るのもお嬢さんに任せて?いいご身分ね?」
「感情的になるなよ。」
「こんな時に落ち着けって言うの?」
今日子が僕のことでこんなに怒るだなんて思わなかった。いつだって仕事の半分も恋愛に真剣ではない今日子なのに、仕事に感情を入れることはあっても恋愛には無感情な今日子なのに・・・・・・。僕の目の前で泣いている今日子といつものドライな今日子が結びつかない。
時計を見た。このままでは確実に会社に遅刻だ。そんな事考えている場合ではないのかもしれないが・・・・・・。ここはほんとのこと言っちまうか。そう思ったときだった。寝室のドアが開いてプリシラが出てきた。
「あの・・・・・。」
僕に始めてあった日のような蚊の泣くような声だった。今日子がドアの方を向いた。釣りあがった目とこわばった顔が一瞬和らいだ。
「ああ、高村君、娘さんよ。」
今日子が髪を掻き揚げながら言った。
「だから娘じゃないって・・」
「あの!!」
さっきとは打って変わって張り上げた大きな声だった。今日子が馬鹿みたいに口をあけて驚いていた。僕はその瞬間、プリシラの声より今日子の表情に驚いていた。3年も付き合っていたのに一度も見る事の無かった隙のある表情だったからだ。
「あの、ちょっといいですか?」
プリシラが歩み寄ってくる。僕はひやひやしていた。何を言う気だ、プリシラ!
「あの・・・今日子さん・・・でしたよね?」
「・・・ええ。」
「今日子さん、パパの恋人なんですか?」
「はい?」
僕と今日子の声がかぶった。今日子は、「ほらごらんなさい、なんだかんだいって子どもじゃない」と言おうとしていただろうし、僕は「なんでパパだなんて言うんだプリシラ!!」と言おうとしていた。しかし口を開きかけたところでプリシラがそれをさえぎった。
「私、パパの娘の高村美夏です。あの、今日子さん何か誤解されてるみたいで・・・その、パパは独身なんです。ママは私が生まれてすぐ死んでしまって。ママとパパは大学の同級生だったらしいんですけど、婚約中に私が出来て、でもママは体が弱くて・・・だからママ、私を生んだら死んでしまう事、自分でも知ってたみたいなんです。だから、パパには早くいい人見つけて結婚して欲しいって思っていたみたいなんです。でもパパ、ずっと忙しくて恋愛どころじゃなかったみたいで・・・・・・でも良かった。パパにもいい人ができて。今日子さん、パパのこと、よろしくおねがいします!!」
・・・・・・すごい・・・・・・。ぼくはこの少女を甘く見ていた。なんてすごい子なんだ。まるで脚本・監督・主演をひとりでこなしているようだ。母親が死んだなんて・・・・・・
その手があったか!!
すべて作り話であることもしらず、今日子は胸を打たれているようだった。「よろしくおねがいします!!」と言った美夏ことプリシラのいじらしい演技も手伝ってか、薄っすらと涙まで浮かべている。
「高村君、ごめんね。何も知らないくせにぎゃあぎゃあ騒いで・・・・・・。男手ひとつでここまで美夏ちゃんの事大きくして、立派だよ。でも、大変な事あったら頼っていいからね。恋人なんだから。」
「ああ。今まで秘密にしててごめん。」
今日子は首を横に振った。
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「ただいまあ。」
「おかえりなさい。」
プリシラは、いつもと変わらない笑顔で迎えてくれた。朝修羅場と化したリビングには穏やかな空気が漂っている。
「今日の朝、ありがとな。助かったよ。」
「ああ、ごめんなさい、勝手に娘になっちゃって。」
「びっくりした。でも、よく思いついたよな。それに、美夏って名前もいつ考えたんだよ。」
一瞬、プリシラの表情が曇った気がした。なぜかは分からない。ただ、プリシラは割とよくこんな表情をする。
「私の知り合いに・・・・・・いるんです、美夏って子。」
「ふうん。」
「・・・・・・本当に、覚えてないんですね。」
ボソッとなにか言われた気がした。
「え?なに?」
「いえ、なんでも。」
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あ、そう。とはいったものの、なんだか引っかかる。プリシラにせよ、今日子にせよ、そして、(思い出したくも無いが)母さんにせよ、僕の周りの女性達は、なぜか引っかかるような言い方をする。そう云う運命なのだろうか?
「あの、突然なんですけど、私のこと、プリスって呼んでもらえませんか?」
「はあ?」
何を言い出すんだ?
「英語圏の国では、プリシラって云う名前のあだ名がプリスなんです。ほら、マイケルをマイクって言ったり、ロナルドをロンって言ったりするじゃないですか。それと一緒で、プリシラはプリスなんです。」
「へえ。じゃあ、プリスって呼ぶよ。」
〜プリス〜・・・・・・また、何かが心の中で引っかかった。プリス・・・・・・その言葉に、ききおぼえがあるきがした。ただの固有名詞に、なぜか懐かしさを感じる。
今でも思う。もっと早く、この「引っかかった感じ」の正体を探ればよかったと。けれどすべてが後の祭りなんだ。世の中、取り返しが付かないことばかりなんだと、35にもなって気付かされるとは思ってもいなかった。 |
(2005/08/23) |